ビジネスが失敗する絶対的な原因は、リサーチ不足といっても過言ではありません。
スタートアップ失敗の42%は「市場ニーズの欠如」が原因でした。事前に正確なリサーチができていれば、このような事態にはならなかったかもしれません。
感覚や勘に頼ったビジネス判断はもう古いことの証明です。
今や成功する企業は、顧客の本音を科学的に分析し、データに基づいた戦略を立てています。
本記事では、中小企業やフリーランスでも実践できる「マーケティングリサーチ」の基本からWebマーケティングで使える成功ポイントまで、詳しく解説します。これを読めば、あなたのビジネス判断が変わり、成功確率が大きく高まるでしょう。
マーケティングリサーチとは

まずはマーケティングリサーチについての概要と、市場調査(マーケットリサーチ)との違いについて解説します。
マーケティングリサーチの概要と重要性
マーケティングリサーチとは、企業が市場や顧客に関する情報を収集・分析し、ビジネス戦略に活かすための体系的な活動です。具体的には、以下のプロセスです。
- 顧客満足度
- 競合分析
- 市場動向調査
- 製品テストなど
消費者の行動や嗜好、市場の動向を理解するための重要なプロセスといえます。

現代のビジネス環境では、感覚や勘だけで意思決定するのは大きなリスクを伴います。米国ハーバード・ビジネス・レビューの調査によると、データに基づいて意思決定を行う企業は、そうでない企業と比較して収益性が5~6%高いという結果が出ています。

マーケティングリサーチを通じて得られる客観的なデータは、効果的な戦略立案の土台です。
日本マーケティング・リサーチ協会によると、国内の市場規模は2023年に約2,393億円に達成。つまり、多くの企業が意思決定の精度を高めるためにマーケティングリサーチを積極的に活用しています。
市場調査(マーケットリサーチ)との違い
マーケティングリサーチと市場調査は混同されやすい概念ですが、明確な違いがあります。
市場調査は主に「市場の現状把握」を目的としており、現在の市場規模やシェア、消費者動向などの情報収集に焦点を当てています。一方、マーケティングリサーチはより広範な活動で、市場調査を含みながらも、将来の戦略立案や商品開発に向けた分析まで行います。
- 市場調査:現在の市場規模やシェア、消費者動向などの情報収集に焦点
- マーケティングリサーチ:広範な活動で、市場調査を含みながらも、将来の戦略立案や商品開発に向けた分析
簡潔に言えば、市場調査が「今」を知るための活動なのに対し、マーケティングリサーチは「今」を知り、「未来」を予測するための活動です。マーケティング全体の一部として位置づけられています。
マーケティングリサーチを行う目的とメリット

マーケティングリサーチを行う4つのメリットについてご紹介します。
顧客の実態やニーズを把握できる
マーケティングリサーチの最大の目的は、顧客が本当に求めているものを理解することです。表面的な要望だけでなく、潜在的なニーズや本質的なニーズを掘り起こせます。
ダイエットして痩せたい女性のニーズ

顧客の購買行動や意思決定プロセスを詳細に分析することで、効果的なマーケティング戦略を構築できます。
データに基づいた意思決定ができる
感覚や経験だけでなく、客観的なデータに基づいて意思決定できることは大きなメリットです。
マーケティングリサーチから得られる定量・定性データは、説得力のある提案や戦略立案の根拠となります。社内での意思決定がスムーズになるだけでなく、投資家や株主への説明にも役立ちます。
例えば、ウェブサイトのリニューアルを検討する場合、ユーザーテストの結果に基づいて改善点を特定可能です。「このデザインが好き」という主観的な議論ではなく、「このデザインでコンバージョン率が15%向上した」という客観的な事実に基づいて判断できます。
ビジネスリスクを軽減できる
事前に市場ニーズや競合状況を把握することで、失敗の可能性を減らし、投資効率を高められます。米国の市場調査会社CBインサイトの調査によると、スタートアップ失敗の42%は「市場ニーズの欠如」が原因でした。
- 1位:市場にニーズがなかった(42%)
- 2位:現金が底をついた(29%)
- 3位:必要な人材が欠如(23%)
- 4位:他社との競争(19%)
- 5位:価格/コストの問題(18%)
特に初期投資が大きいプロジェクトでは、リサーチの重要性がさらに高まります。
また、リスク軽減の観点では、競合分析も重要です。市場に類似製品がすでに存在する場合、その強みと弱みを分析することで、差別化ポイントを明確にできます。
競合分析

個人や中小企業にとっても、具体的な数値でリスク削減を見ることで、限られたリソースを最大限に活かせるため、マーケティングリサーチへの投資は欠かせません。
効果的な商品開発・改善につながる
顧客の声を直接取り入れることで、より魅力的な商品やサービスを開発できます。
既存商品の改善点や新商品のアイデアを顧客から得ることで、市場に受け入れられる可能性が高まります。例えば、多くの食品メーカーは新商品開発前に試食テストを実施し、味やパッケージの改善を行っています。
サッポロビール株式会社では、顧客である17,000名のビール愛好家と共同で「百人のキセキ 魅惑の黄金エール」を開発しました。商品化されたビールは多くの反響を呼び、全国のコンビニエンスストアでも販売されることになりました。
顧客の声を取り入れた商品開発は、発売後の評価も高くなる傾向があります。製品の使い勝手や機能性について、実際のユーザーからフィードバックを得ることで、より実用的な改善が可能となるでしょう。
マーケティングリサーチの種類

マーケティングリサーチには様々な調査方法があります。
大きく、内容、タイミング、方法の3つに分けてご紹介します。
内容(定量調査と定性調査)
マーケティングリサーチには主に定量調査と定性調査の2種類があります。
定量調査は数値データを収集・分析する手法です。多数の回答者から得られた統計的なデータを基に、市場全体の傾向を把握します。アンケートや購買データ分析がこれに当たります。
一方、定性調査は少数の対象者から詳細な情報を得る手法です。消費者の心理や行動の背景にある理由を深く理解するのに適しています。インタビューやグループディスカッションなどがこれに含まれます。

両手法にはそれぞれ長所と短所があるため、調査目的に応じて適切な方法を選ぶか、両方を組み合わせるのが効果的です。
タイミング(パネル調査とアドホック調査)
調査の実施タイミングによっても分類できます。
パネル調査は同じ対象者に対して定期的に調査を行う手法で、時間経過による変化を把握するのに適しています。消費者の購買行動の変化や、広告効果の持続性などを測定できます。
アドホック調査は特定の目的のために一度だけ実施する調査です。新商品の開発や特定の課題解決など、明確な目的がある場合に実施します。

方法(オンライン調査とオフライン調査)
調査手段によっても分類できます。
オンライン調査はインターネットを通じて行われる調査で、短期間で大量のデータを収集できる利点があります。コストも比較的低く、地理的制約も少ないのが特徴です。
オフライン調査は対面や電話、郵送などで行われる従来型の調査です。インターネットを利用しない層からも情報を得られるという利点があります。

主なマーケティングリサーチの手法

実際にマーケティングリサーチをする場合、どのようにするのかについてご紹介します。
アンケート調査(インターネット・郵送・電話)
アンケート調査は最も一般的なリサーチ手法で、多数の回答者から定量的なデータを収集します。
インターネット調査はスピードと低コストが魅力です。短期間で大量のデータを収集でき、即時に結果を確認できます。一方、回答者が偏りやすい点には注意が必要です。
郵送調査は回答の質が高いという利点がありますが、回収までに時間がかかります。電話調査は直接コミュニケーションができる利点がありますが、拒否率が高い傾向にあります。
目的や予算、対象者に応じて最適な方法を選択することが重要です。
インタビュー調査(デプス・グループ)
インタビュー調査は深い洞察を得るための定性的手法です。
デプスインタビューは1対1で行う詳細な面接法で、個人の深層心理や本音を引き出すのに適しています。プライバシーに関わる内容や、他者の意見に影響されたくない場合に効果的です。
グループインタビューは複数の参加者による討論形式で、多様な意見や相互作用から生まれる発見が期待できます。参加者同士の議論から新たな視点が生まれることもあります。
両手法とも、経験豊富なインタビュアーの存在が調査の質を大きく左右します。
ホームユーステスト(HUT)
ホームユーステストは、実際の使用環境での商品評価を行う手法です。
参加者に商品を自宅で使用してもらい、実際の使用感や満足度を評価します。化粧品や家電製品、食品など様々な商品カテゴリーで活用されています。

実際の使用環境での評価が得られるため、より現実的なフィードバックが期待できます。例えば、あるヘアケアブランドは自宅でのシャンプー使用テストを実施し、香りの持続性に関する重要な発見を得て製品改良に活かしました。
会場調査(CLT)
会場調査(Central Location Test)は、特定の会場に消費者を集めて行う調査です。
製品の使用感や味覚テスト、パッケージの評価などを管理された環境で実施します。食品や飲料、化粧品などの官能評価に適しています。
条件を統一して複数の製品を比較評価できるのが大きな利点です。
ミステリーショッパー(覆面調査)
ミステリーショッパーは、調査員が一般顧客を装って店舗やサービスを利用し、その品質を評価する手法です。
接客サービスの質や、マニュアル通りの対応がなされているかなどを客観的に評価できます。特に小売業やホスピタリティ産業で活用されています。
従業員が監視されていることを意識しない自然な状態でのサービス品質を測定できる点が大きな特徴です。
製品テスト・パッケージテスト
製品そのものやパッケージの評価を行う専門的な調査です。
製品テストでは、機能性や使いやすさ、満足度などを評価します。具体的には、「ブラインドテスト」(ブランド名を伏せた状態での評価)や「使用満足度テスト」などがあります。
パッケージテストでは、デザインの魅力や情報の伝わりやすさ、棚での目立ちやすさなどを調査します。「アイトラッキング調査」(視線の動きを追跡)や「棚割シミュレーション」などの高度な手法も活用されています。
マーケティングリサーチの実施手順

マーケティングリサーチは以下の手順で行います。
1. 調査目的の明確化
マーケティングリサーチを始める前に、明確な目的設定が不可欠です。
- なぜこの調査を行うのか
- どのような情報が必要か
- 得られた情報をどう活用するか
目的があいまいだと、的外れな調査設計になり、貴重な時間とコストが無駄になります。
例えば「市場調査を行いたい」という漠然とした目的ではなく、「20代女性向け新商品の受容性を評価し、最適な価格帯を決定する」といった具体的な目的を設定します。
2. 調査計画の立案
目的が明確になったら、具体的な調査計画を立てます。
- 調査手法の選定
- サンプル数の決定
- スケジュールの設定
- 予算の配分 など
ターゲットとなる調査対象者の特性も明確にし、適切なサンプリング方法を選びます。
例えば、若年層を対象とする場合はオンライン調査が適しているかもしれませんが、高齢者を対象とする場合は電話や訪問調査が効果的かもしれません。
3. 調査の実施
計画に基づいて実際に調査を実施します。
アンケートの配布・回収、インタビューの実施、データ収集などを行います。この段階では、調査の質を確保するための適切な管理が重要です。
- 無作為抽出法の徹底
- 質問の中立性確保
- 適切な回答時間の設定
- プライバシーの確保
- 調査員のトレーニング など
特にインタビュー調査では、バイアスを排除し、回答者が本音で答えられる環境づくりが必要です。アンケート調査では、回答率を高めるための工夫も必要となります。
4. データの分析・集計
収集したデータを整理し、分析します。
単純な集計だけでなく、クロス分析や統計的検定など、目的に応じた分析手法を用います。定性データの場合は、キーワードの抽出やパターンの発見などを行います。
データ分析の専門知識を持つスタッフや外部の専門家の協力を得ることで、より深い洞察を得られることもあります。
5. 意思決定への活用
分析結果を基に、ビジネス上の意思決定を行います。
単なるデータの羅列ではなく、「だからどうする」という行動指針につながる示唆を導き出すことが重要です。例えば、価格感度分析の結果から最適価格帯を決定したり、消費者の不満点から製品改良のポイントを特定したりします。
調査結果を社内で共有し、組織全体で共有・活用する文化を育てます。定期的なデータ共有会議や、部門横断プロジェクトを通じて、データに基づく意思決定を組織文化として根付かせましょう。
重要なのは、調査結果を「知識」から「行動」へと変換することです。どんなに優れた調査結果も、実際のビジネス判断やマーケティング施策に活かされなければ価値を生み出せません。データに基づく意思決定を習慣化することで、組織の競争力強化につながります。
Webマーケティングにおける効果的なマーケティングリサーチのポイント

Webマーケティングの分野では、適切なリサーチが成功へと導きます。デジタル環境の特性を活かした効果的なアプローチを紹介します。
ユーザー行動データの活用
デジタルマーケティングの最大の強みは、詳細なユーザー行動の追跡です。Googleアナリティクスなどの解析ツールを活用しましょう。
- アクセス解析:ページビューや滞在時間といった基本指標を確認
- 流入経路分析:効果的な集客チャネルを特定
- コンバージョンパスの分析:成果に至るまでの経路をの明確化
特に有効なのは、購入や問い合わせに至った顧客と、そうでないユーザーの行動パターン比較です。多くの購入者が商品レビューページを閲覧していることが判明した場合は、レビュー強化により売上の向上が期待できます。
競合サイトのベンチマーキング
Webマーケティングでは競合分析が比較的容易です。SemrushやAhrefsといったツールで競合のSEO戦略を分析できます。どこから被リンクを得ているのか、コアアルゴリズムアップデートが来た際はどのような施策をとっているかなどを調査しましょう。
また、競合のコンテンツ戦略、ユーザー体験、機能、価格設定なども調査対象です。単に模倣するのではなく、差別化ポイントを見つけることが重要です。
ユーザーフィードバックの収集
数値データだけでなく、質的データも収集しましょう。サイト内アンケートは簡潔で回答しやすい設計が肝心です。
ユーザーテストでは実際のユーザーにタスクを実行してもらい観察します。わずか5〜7名のテストでも有益な洞察が得られます。
オンラインフォーカスグループやチャットボット分析も効果的です。A/Bテストでは異なるデザインや機能を並行して検証できます。
ソーシャルリスニング
SNSや口コミサイトは消費者の生の声を収集できる貴重な情報源です。
自社ブランドやサービスに関する投稿の感情分析から、ユーザーの本音を把握できます。業界トレンドの分析により、新たな機会を発見できます。
効果的なデータ統合
複数のデータソースを統合することで全体像が見えてきます。
Web、メール、SNS、オフラインなど異なるチャネルのデータを統合しましょう。行動パターンや購買履歴に基づく顧客セグメント分析も重要です。
カスタマージャーニーマッピングでは、各接点でのデータを統合して顧客体験の全体像を把握します。データダッシュボードの活用で、リアルタイムでの意思決定が可能になります。
リアルタイム分析とアジャイルアプローチ
Webマーケティングの強みは、素早くフィードバックを得て調整できる点です。
キャンペーン効果やサイトパフォーマンスをリアルタイムでモニタリングしましょう。小規模な変更を素早く実施し、効果を測定する繰り返し改善が効果的です。
フィードバックループを短縮し、調査から実装、効果測定までのサイクルを速めることが大切です。
適切なKPIの設定
効果測定には適切なKPI設定が不可欠です。
PVやフォロワー数といった見栄えの良い数字ではなく、コンバージョン率や顧客生涯価値など事業成果に直結する指標を重視しましょう。最終目標と中間目標の両方を設定することも大切です。
アトリビューション分析では、コンバージョンに至るまでの各接点の貢献度を評価します。施策ごとの投資対効果を明確化することで、予算配分の最適化が可能になります。
ユーザープライバシーへの配慮
近年の規制強化に対応したリサーチ設計が必要です。
データ収集目的を明確に説明し、ユーザーから明示的な同意を得る仕組みを整えましょう。個人を特定できない形でのデータ分析も重要です。
サードパーティCookieに依存しない測定手法の検討も進めるべきです。自社で直接収集したファーストパーティデータの価値向上に注力しましょう。
実践ステップ
効果的なWebマーケティングリサーチは、以下のステップで進めるとよいでしょう。
- 現状分析から始め、既存のWeb解析ツールでデータを確認し課題を特定します
- 具体的なリサーチ目標と成功指標を設定します
- 目的に合った分析ツールを選定・導入します
- 量的・質的データの両面からアプローチします
- データからアクションにつながる洞察を抽出します
- 施策実施と効果測定を繰り返します
適切なリサーチに基づく意思決定により、Webマーケティングの効率と効果を大幅に高められます。データに基づく仮説検証と継続的な改善に取り組みましょう。
まとめ

マーケティングリサーチは、ビジネス成功の重要な基盤です。市場や顧客を深く理解することで、効果的な戦略立案や商品開発が可能になります。
調査の目的を明確にし、適切な手法を選択することが成功に不可欠です。得られたデータは単なる情報ではなく、具体的な行動につなげることで初めて価値を生み出します。
デジタル技術の発展により、リサーチ手法も多様化しています。伝統的な手法とデジタルツールを組み合わせることで、より深い洞察を得ることが可能です。
データに基づく意思決定で、ビジネスの成功確率を高めていきましょう。